Artificial Ecosystem · 研究記録

RootNet v5.8.0
Biological Model

菌類・藻類・共生体に着想を得た人工生態系。設定した規則から生じる資源分配・生存・成長・繁殖・分断/再接続を調べた。

実測校正された予測モデルではない

01概要

RootNet v5.8.0 は、菌類・藻類・共生体(両者の機能を合わせたもの)に着想を得た人工生態系である。

大切な前提として、これは実在する特定の生物を実測データで校正した「予測モデル」ではない。現実の森や菌根ネットワークの個体数や死亡率を当てるためのものではなく、「設定した規則から、どんな資源の分配・生存・成長・繁殖・分断や再接続が生じるか」を調べるための、実験用の世界である。

このモデルの中では、各個体が 炭素・水・窒素 という3種類の内部資源を持っている。そして RootNet(個体どうしをつなぐ地下ネットワーク)が、つながった個体の間で資源を移送する。移送には次の性質がある。

つまり RootNet は「新しい資源を生み出す仕組み」ではなく、「すでにある資源を、つながった個体の間で配り直す仕組み」である。目的は、この規則から生じるふるまいを観察することにある。


02生物モデル

3つの機能群

3つの資源

各資源は 0.0〜1.5 の範囲。連続で足りない日数も記録され、十分に補給できた日は少しずつ回復する。

一日の流れ

  1. 資源取得: 光・基質・雨・貯水・土壌から取り込む。
  2. RootNet資源移送: 多い側から少ない側へ移す。
  3. 維持代謝: 生きるために炭素・水・窒素を消費する。
  4. 欠乏と死亡の判定: 足りない日が続くと損傷がたまり、長く続いて体力が落ちた個体は欠乏死する。
  5. 成長: 残った資源で体を大きくする。
  6. その他(環境負荷・防疫・繁殖・分断/再接続)の更新。

繁殖と継承

条件を満たした個体は種子を作り、種子はやがて発芽して新しい個体になる。子は親の遺伝子や生理形質を継承し、そこに小さな変異が加わる。なお resource_sharing などの形質は「性格」ではなく、遺伝子と形態から決まる生理的な値である。

各変数・各式の詳しい定義は BIOLOGICAL_MODEL_SPEC.md を参照。ここではすべての式は書いていない。


03実験の目的

この研究では、資源輸送を ON にした世界と OFF にした世界を比べた。調べたのは次の3点である。

  1. 平常時(自然降雨)に、資源輸送が生存と出生へどんな効果を与えるか。
  2. 干ばつ(60日・120日)のときに、どんな効果を与えるか。
  3. 出生数の差が、どの段階から始まるのか。

重要なのは、OFF 条件でも RootNet の接続・信号・防疫・分断/再接続はそのまま残していることである。止めたのは「炭素・水・窒素の移送だけ」で、ネットワークそのものを壊した実験ではない。


04主な結果

以下はすべて v5.8.0 という人工生態系の中での結果であり、現実の生態系の予測ではない。

自然降雨

最終生存数(ON / OFF)
39.54 / 49.45
死亡総数(ON / OFF)
90 / 205
対応差平均 ON−OFF
−9.91

60日干ばつ

最終生存数(ON / OFF)
32.01 / 33.40
死亡総数(ON / OFF)
72 / 177
対応差平均 ON−OFF
−1.39

120日干ばつ

最終生存数(ON / OFF)
16.60 / 14.27
死亡総数(ON / OFF)
123 / 405
水欠乏個体日(ON / OFF)
29.23 / 115.01
対応差平均 ON−OFF
+2.33

自然降雨では、ON は死亡を減らしましたが、それ以上に出生を減らしたため、最終個体数はかえって少なくなった。60日干ばつは差が縮んだ中間条件で、優劣の転換点が確定したとは言えない。120日干ばつでは、ON が水欠乏と死亡を大きく減らし、最終生存数も多くなり、向きが逆になった。

効果の流れ

自然降雨

資源輸送ON
死亡は減る
出生はさらに減る
最終個体数は少ない
ON−OFF = −9.91

120日干ばつ

資源輸送ON
水欠乏が減る
死亡が減る
最終個体数は多い
ON−OFF = +2.33

参考の観察: 共生体の最終生存数は、自然降雨・60日・120日のどの条件でも ON の方が多く、輸送の恩恵は機能群によって一様ではなかった。


05出生差の発生経路

「ON では最終個体数が少ない」という自然降雨の結果について、その差がどの段階から始まったかを、同じ seed のペアで追跡した。

全体平均(自然降雨・200軌道)
指標ON 平均OFF 平均
新規種子数43.0069.93
発芽数31.4442.51
総成長量2274.822992.37
繁殖抽選可能個体日162.97259.59

差が最初に現れた日(中央値)

  1. 資源輸送・繁殖直前資源・成長の差 …… 2日
  2. 繁殖準備状態の差 …… 24日
  3. 新規種子数の差 …… 52日
  4. 発芽・生存数の差 …… 57日

出生差は発芽だけで生じたのではなく、それ以前の成長・繁殖準備・種子生成の段階から生じていた。

一方で、次のことは断定できない

実際、ON 条件の中の観察では、純輸出個体の平均種子数(1.31)は、純受取個体(0.95)よりむしろ多くなっていた。
そのため「資源を渡した個体だけが損をした」という単純な説明には合わない。これは ON 条件内の記述集計であり、個体の役割の因果効果を示すものではない。


06既存理論との関係

大きな方向性は既存理論と重るが、RootNet が新しい一般進化理論を発見したわけではない。慎重に整理すると次のとおり。

RootNet 固有の点は、保存的な三資源移送・平常時と強い干ばつでの効果の反転・出生差の発生経路を、一つの人工生態系の中でまとめて監査したことである。

参考文献

各論文と RootNet の一致点・相違点の詳しい照合は rootnet_existing_theory_audit_ja.md を参照。


07この結果からまだ言えない事

この実験からは、次のことはまだ言えない(今後の仮説であって、証明された事実ではない)。

大事な区別として、今回の ON/OFF 比較は「資源輸送機能の生態学的効果」を調べた実験である。異なる共有戦略を同じ世界で何世代も競争させる進化実験ではない。したがって「なぜ移送が進化しうるのか」には、この実験だけでは答えられない。


08検証

数値の信頼性を保つため、次の監査を行い、いずれも総合判定は PASS した。

資源輸送 ON/OFF 実験

出生経路監査


09ファイル案内

相対リンクは張らずファイル名のみ記載。GitHub参照。

親別・日別・資源別の詳細は付随する JSONL に保存されています。


10実行と検査

以下は既存の技術資料に記載のコマンドで、推測で追加したものはありません。

実行

python main.py --days 10 --seed 42

既定の保存先は fusa_rootnet_v5_8_0.json、系統樹は fusa_lineage_tree.html です。

検査

python -m unittest discover -v
python validate_v5_8_0.py

検査は、機能群・非擬人化・菌類と藻類の炭素獲得差・保存的資源移送・欠乏死・120日物質収支・schema v11 移行・保存/再開一致などを対象とします。